X308 · A FLAT BATTERY
電気泥棒をさがして
納車三か月、新品のはずのバッテリーが完全に上がった。原因不明の放電を疑いながら、ジャンプスタートで復旧した日の記録。
その日、ジャガーはうんともすんとも言いませんでした。キーをひねってもセルは回らず、ETCの起動音すらしない。納車から、ちょうど三か月が過ぎたところでした。
バッテリーは納車のときに新品に替わっています。だから、まさか上がるとは思っていませんでした。でも、ただ弱っているのとは様子が違う。メーターも灯らない、ETCにも電気が行っていない。完全に、すっからかん。電気が一滴も残っていない、という感じの沈黙でした。
おかしいのは、心当たりがないことです。ライトを点けっぱなしにした覚えも、半ドアにした覚えもない。ふつうに停めて、ふつうに離れただけ。それで三か月の新品バッテリーが空になるなら、どこかで誰かが、停まっているあいだも電気を盗み続けている——いわゆる「電気泥棒」、暗電流(あんでんりゅう)の仕業を疑うのが筋です。古い英国車の電装は、こういうところがある、とは聞いていました。聞いていましたが、いざ自分の番になると、なかなかこたえます。
ともかく、その場は動かさないと話になりません。もう一台のミニバンを近くまで寄せて、ブースターケーブルをつなぐ。赤を+に、黒をボディアースに。ミニバンのエンジンをかけて少し待ってから、ジャガーのキーをひねると、今度はちゃんとセルが回って、V8が何事もなかったように目を覚ましました。ひとまず、ほっとしました。
ケーブルのつなぎ方は分かっているので、迷ったのはそこではありません。困ったのは原因のほうです。「セルも回らない、ETCも点かない、これは何が考えられる」と、その場で Gemini に投げながら、暗電流だ初期不良だと候補を並べていく。整備書をめくる代わりに、相棒がポケットにいるような感覚で、これが想像以上に便利でした。
古い車に、新しい道具で向き合う。
妙な取り合わせですが、悪くない時代だと思います。
とはいえ、原因はまだ分かっていません。新品バッテリーの初期不良なのか、どこかの回路が電気を盗んでいるのか。次に同じことが起きたら、満充電にしてから暗電流を測り、ヒューズを一つずつ抜いて犯人をさがすことになります。容疑の筆頭は、あとから付いた電装品あたり。その顛末は、分かったら世話の記録に書きます。
古い車と暮らすというのは、たぶんこういうことの積み重ねです。動いて当たり前ではない一台と、上がった電気を分けてもらいながら付き合っていく。困った日のはずなのに、書いてみると少し笑えてくるのは、無事に目を覚ましてくれたからでしょう。
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